生分解性材料事業 社長インタビュー

Q1.なぜ、生分解性材料に取り組むのですか?

中国における深刻なプラスチックごみ問題は喫緊の課題

1962年に発表されたレイチェル・カーソンの著書「沈黙の春」では、DDTを始めとする農薬などの化学物質の危険性を、鳥達が鳴かなくなった春という出来事を通し伝え、化学業界に大きな衝撃を与えました。 これにより実際に化学物質の安全性に関する考え方が根本的に覆され、それまで農薬として主流で使用されてきたDDTをはじめ、いくつかの代表的な化学製品が規制されることになりました。そして今、世界の環境・ゴミ問題はこの時と全く同じ状況にあると考えています。

日本ではプラスチックのリサイクルモデルが早期に確立され、リサイクル率は80%以上に達しているため、プラスチック廃棄物汚染の問題はそれほど深刻ではありません。 一方、中国の広大な国土では、ごみの完全な処理が難しいため、大量のプラスチック廃棄物が土壌に埋もれ、河川や湖沼に流れ込み、深刻な環境汚染問題を引き起こしています。2018年中国近海調査によると、長江入海口のプラスチック微粒子量が世界トップレベルに到達しています。また、その他の河川調査においても少なくとも先進国平均の30倍程度になっていることが分かっています。 綿名産地である新疆の長繊維綿から生産された綿に大量のプラスチック微粒子含有が検出され、除去困難となっており商品価値が暴落しているという事例もあります。

淡水魚は中国人の主要なたんぱく源であり、プラスチック微粒子を食べた魚を人間が食べることで健康被害を引き起こす可能性についても既に化学的に証明されており、政府も注目しています。中国国家発展開発委員会は、2020年1月16日に「プラスチック汚染対策の更なる強化に関する意見書」を発表し、2020年までに一部の地域・分野でプラスチック製品の生産・販売・使用を禁止・規制すること、2022年までに使い捨てプラスチック製品の消費量を大幅に削減すること、2025年までにプラスチックリサイクル制度を確立し、汚染の進行を食い止めるというロードマップを公表しました。この政策は、既に3月に中国の海南省など一部地域で施行を開始しています。 また、対コロナ経済刺激策として中国は数兆円規模を予定しています。米中貿易摩擦により最大の輸出国から制限を受けている中で、既存産業への追加投資が更なる国内余剰の引き金となりかねないためこれらの資金は新エネルギーや新材料の方向に向かいやすくなるのではないかと考えています。

Q2.日本ではバイオマスプラスチックが生分解性プラスチックよりも 注目されているようですが、なぜ生分解性に注目されたのですか?

バイオマスプラスチックの問題点

バイオプラスチックの原材料は、主にトウモロコシなどの農作物となり製造には大量の農作物が消費され、世界的な食糧不足問題に更なる負担を増やすことになりかねません。一般的に1トンのエチレンの生産には1.6トンのエタノールが必要であり、1トンのエタノールの生産には3トンのトウモロコシが必要です。よって、1トンのエチレンをバイオ法で製造しようと思うと約5トンのトウモロコシを消費してしまうことになります。 現在、世界のプラスチックと繊維からなる合成材料は年間5億トン生産されていて、4億トンはプラスチックです。そのうち36%にあたる約1.5億トンは使い捨てのビニールや包装材料が占めているといわれています。これらは海洋や河川等に流れ出てしまう可能性があり、これらを全て「バイオ」で代替しようとすれば、実に10億人以上もの食料が必要となる計算となってしまうのです。10億人分の食料を使い捨てプラスチックのために使うことが本当に環境に優しいことなのかは疑問の余地があると思います。だからこそ、マイクロプラスチック問題や海洋問題に本気で取り組むためには、化学合成法による生分解材料の製造が必要であると考えているのです。

Q3.ハイケムが長年取り組んでいるC1ケミカルとの親和性はありますか?

C1ケミカルでより地球に優しい生分解性プラスチックを安く大量生産する

化学合成法で生分解性プラスチックを製造するにあたり、中国では、当社が長年取り組んでいるC1ケミカルがその一躍を担うと考えています。石炭や天然ガスなど中国で豊富に産出される原料から製造が可能となるC1ケミカルを活用することで、生分解性材料の大量生産が可能になります。ラクトン類を作るための原料は例えばCO、EO(エチレンオキサイド)などなので、例えば楡林で展開しているC1化学コンビナートなどでも大量に入手できます。また、C1ケミカルを応用することで、製造を単純化でき、コスト削減にも効果があると考えています。更に、高分子材料の製造にC1ケミカルを用いることは、石油を原料とする製造技術に比べ、CO2排出量の削減効果が見込まれます。C1ケミカルによる合成法は炭素利用効率が石油法に比べ非常に高いという特徴を持っているのです。よって、より大量に、安価に、CO2排出量がより少ない方法で、生分解性プラスチックの製造が可能となります。

Q4.生分解性材料に取り組むにあたり、ハイケムだからできることとは何ですか?

生分解性素材のトータルソリューションカンパニーとなり、世界のごみ問題を解決する

中国の莫大な資金が生分解に向かえば、生分解材料原料の生産能力は飛躍的に増大するでしょう。しかし、普及にあたっては技術的な課題が残されています。材料である以上、いくら原料を大量に作れても実際に日々の生活に違和感なく自然に入っていけるよう色や形を整えなければ普及はできません。そして、材料というのは重合や加工、成形といった「いい加減」に混ぜたり押したり伸ばしたりする、プロセスフローを超えた職人気質的なレシピの世界であると思います。そしてまさにこここそ、日本人が最も得意とするところです。

世界の海洋ごみ、マイクロプラスチック問題を解決するのは日本の材料技術であると確信しています。そして、ハイケムはこれから台頭してくる中国の生分解材料原料のサプライヤーと日本材料技術の架け橋となり、生分解材料のトータルソリューションカンパニーとなって、世界の環境問題、マイクロプラスチック問題に取り組んでいきたいと考えています。