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HighChem Insights 2024年10月10日

ハイケムのC1技術が切り開く水素社会の未来 ─ 年間130万トンの水素取扱実績

化石燃料に代わる次世代のエネルギーとして注目される水素。水素は燃やしてもCO2を排出せず、脱炭素社会に向けて自動車や製鉄など様々なエネルギー源としての活用が期待されています。

日本では、2050年までに年間2,000万トンの水素利用を目指し、政府や企業が世界に先駆けて先進的な取り組みを行っています。また、中国においても2030年までに燃料電池車(FCV)生産を100万台にまで増やす計画を掲げるなど、水素社会の実現に向けた取り組みが各地で本格化してきています。

全世界が脱炭素の鍵として注目し、いわばレッドオーシャンともいえる「水素」にハイケムが注力するのは、長年積み上げてきたC1ケミカル技術が水素社会の実現をリードする鍵となるから。C1技術による化学品の製造には水素が欠かせず、すでにハイケムのライセンス先では年間100万トンを超える水素が製造・利用されているといいます。

そして、ハイケムでは水素分野で高い技術を有する、日本の大手エネルギー企業と共同で中国における水素エネルギー供給についてのフィージビリティスタディを実施するなど、日中を舞台に、水素社会をリードする取り組みを行っています。

これらのハイケムの先進的な水素事業の最新の取り組みについて、事業をけん引する中心メンバーに話を聞きました。


右:C1事業部 小西事業部長
大手商社でグローバルなTradingや資源型プロジェクトに従事したあと、2021年にハイケムに入社しC1事業部の事業部長に就任。

左:C1事業部 水素エネルギー課 呉課長
北京航空航天大学で航空分野のエンジニアリングを学び、卒業後2012年に日本の大手化学メーカーに就職のため来日、エンジニアリングの仕事に6年ほど従事。その後、2018年にハイケムに入社。2022年より新設の水素エネルギー課の課長に就任。

ハイケムは年間約130万トンの水素を取り扱う日本を代表する企業

小西事業部長「ハイケムは水素の取り扱いではすでに日本を代表する企業」

──ハイケムの水素事業の取り組みについて教えてください。

小西 ハイケムではC1ケミカル技術を使って合成ガスから化学品を製造する技術開発を行ってきました。その中でも中核となるのは、石炭から合成ガス経由で化学品を製造するという、日本で以前開発されていた技術を掘り起こして応用技術を開発し、中国で商業化・スケールアップした実績です。ハイケムは石炭からPETの原料となるエチレングリコールという汎用化学品を製造する技術をSEG®技術として確立させ、年間で合計約1,000万トン規模のライセンス(25件)を中国で実施しました。日本で製造されているエチレングリコールは全メーカー合計しても年間約100万トンに届かない規模なので、ハイケムのライセンス先だけで約10倍の規模といえばそのすごさが伝わるのではないでしょうか。

そして、この1,000万トン/年のエチレングリコールを製造するためには、年間約130万トンの水素が必要になります。日本の2030年の水素利用の目標が年間300万トンなので、すごい量であることがお判りいただけるのではないでしょうか。これだけみても、ハイケムは水素の取り扱いという観点ですでに日本を代表する企業であるといえます。

驚異的なスピードで水素の普及が進む中国

呉課長「中国ではすでに安価な水素が大量に製造されている」

──中国における水素の普及状況は?

 日本では水素の製造コストが高いことが、水素社会の実現のネックであると語られるケースが多いですが、中国ではすでに安価な水素が大量に製造されています。

資源として石炭を豊富に有する中国では、CO2を多く排出する火力発電として石炭を利用するのではなく、化学品の製造といった高度利用化が推進されています。石炭から化学品を製造する際には、ハイケムが得意とするC1ケミカル技術を用いることが多いのですが、その際に重要な原料となるのは「炭素」と「水素」です。

小西さんも説明されたようにSEG®法を用いたエチレングリコールの製造にも水素は必要です。また、汎用化学品のプロピレンを製造するPDH(プロパンハイドレート)という手法では、副生の水素が発生します。この方法を用いてプロピレンを製造するプラントは中国に10~20の規模で設置されているというので、副生水素だけでも多くの水素が製造され、有効利用されていないケースも散見されるといいます。

また、中国の内陸部では、太陽光発電などの再生可能エネルギーの普及も急速に進んでいるため、安価なグリーン水素の製造や技術開発も急ピッチで進められています。


小西 現在、中国で水素ステーションは約400か所以上設置されていて、水素利用という観点においても、世界一の規模です。また、中国の各省政府が発表した計画では、2030年までに燃料電池車(FCV)の導入台数を10万台以上増やすと掲げています。

EVや太陽電池をはじめ、中国におけるグリーンテクノロジーが驚異的なスピードで普及するのを世界は見せつけられてきました。水素においても同様の発展の方向に進む可能性は大きいのではないでしょうか。

一方で、中国で水素が有効利用されていない理由の一つが、水素の製造場所と消費地が離れている点です。水素の生産地は石炭や再生可能エネルギーが豊富な内陸部に集中しているのに対し、実際の水素の消費地は沿岸部に集中しています。

日本の大手エネルギー企業と共同で日本の水素輸送技術のフィージビリティスタディ※を中国で実施!

──日本の先進的な水素技術が中国で活用されるような可能性はあるのでしょうか?

小西 大いにありえると思います。例えば、先述した生産地と消費地が離れている課題に対しては、日本の水素の貯蔵・運搬の技術が注目されています。

 ハイケムは2019年から日本の大手エネルギー企業と共同で、中国におけるMCH方式における水素エネルギー供給についての諸検討を行い、フィージビリティスタディも実施しました。MCH方式とは、水素キャリアとして有機ハイドライド(メチルシクロヘキサン:MCH)を利用し、水素を貯蔵・運搬する方式です。いくつかの水素輸送技術の中でもMCH方式は常温で液体であり、ガソリンやタンクローリーなどの既存のインフラ設備も利用可能であることから、水素社会の担い手になる先進的な方法であると期待されています。

小西 日本の水素社会実現の難しい点は、後にも先にもコストです。まず日本では、再生可能エネルギーが高いし、そこから製造される水素は更に高くなる。一方で、中国の内陸部には安い大量の再エネがあり、既に安価な副生の水素も製造されています。そして、水素ステーションも、ものすごいスピードで整備されています。

日本で開発された新しい技術を実証し、技術力を高めるのに最も適した舞台が中国にあるといえます。まだ実用化されていない、日本の技術を磨き上げるという観点でみれば、既に安い水素があり、水素を利用する人が世界の中でも比較的多い中国は、日本の先進的な水素技術を実証して磨き上げるには、理想的なステージといえるのではないでしょうか。

※実現可能性調査

先進的な技術力を持つカーボンエナジー社とハイケムの協業で見えてくる水素社会

カーボンエナジー社との販売代理店契約締結式の様子

──グリーン水素の普及に対してどのような取り組みを行っていきますか?

 ハイケムは2023年に中国でアルカリ水電解装置の重要部材を製造・販売する、炭能科技(北京)有限公司(以下、カーボンエナジー)と販売代理店契約を締結しました。

アルカリ水電解装置とは再生可能エネルギーから水素を製造する装置であり、グリーン水素の画期的な製造方法として世界中で研究開発が進んでいます。

カーボンエナジー社は、アルカリ水電解装置の重要部材である膜については、世界で2社のみが製造する第3世代の複合膜を提供しています。従来品と比べ優れた気密性と低抵抗率を有しており、高純度水素を少ない電力で簡単に製造することが可能となる画期的な製品で、私たちもそうですが、これを見た日本のお客様もその性能の高さに驚いていました。

これだけ技術力の高いカーボンエナジー社とハイケムが協業することで、カーボンニュートラルな社会を実現するための面白い事業を創出できると考えています。最近ではお互い中国と日本を往来し、交流を深めているところです。

水素社会実現に向けた取り組み:
化学品をCO2由来に置き換えるためにも、水素社会の実現は欠かせない

小西「CO2から化学品を製造するには水素が欠かせない」

──ハイケムの水素事業の拡大は、CO2から化学品を製造する技術開発においても大きな意味を持ちそうですね。

小西 その通りですね。CO2から化学品を製造する際には水素が欠かせません。現在石油由来が主流である化学品をCO2由来に置き換える未来をハイケムが先導していくためにも、世界で安価な水素が普通に利用できる社会を作っていかなければいけない。そのためにハイケムは何ができるのかを愚直に考えていく必要があると思っています。

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