ハイラクト® 2024年05月29日

HIGHLACT®最新コレクション発表会@kudan house 開催報告

5月23日、東京千代田区にある登録有形文化財「kudan house」(九段ハウス)を会場にHIGHLACT®(ハイラクト®)の最新コレクションの発表会が行われました。そのイベントの模様、そして高い技術力によって生まれた新たなハイケム製品の魅力についてご紹介します。

さらに、会場では東京大学先端科学技術研究センター先端アートデザイン分野の吉本英樹特任准教授とハイケムの高裕一取締役が「デザインと繊維産業の未来」をテーマに特別対談しました。人間の心とファッションとの深い関わりについて交わされた対談内容もリポート。ぜひご一読ください。

文:瀬戸洋一

モデルも肌触りや素材の原料に驚いた HIGHLACT®最新コレクション

昭和初期に建てられた瀟洒な洋館の一室に登場した2人のファッションモデル。まとっているのはHIGHLACT®の最新コレクションです。


最初に紹介されたのは、いずれもPLA(ポリ乳酸)100%の黒のマイクロフリース フーディとチノカーゴパンツのコーディネート。フーディの黒の深みが軽やかな印象を強めます。次に同じくPLA100%の白のボアフリースとデニムの組み合わせ。シルクのような艶やかな白がデニムとマッチし、ふんわりとした質感を持ちながらもすっきりとしたスタイルです。

この発表の直前、着用したモデルたちに素材として使われているHIGHLACT®がトウモロコシ由来の繊維であることを伝えると、とても驚いた表情に。「肌触りがよい」、「白や黒の色合いが美しい」、「ふだんから洋服を買うときは長持ちするものかどうかなどサステナブルな点を重視しています」などと話していました。最新コレクションを装った2人は洋館の庭園などで鮮やかな新緑を背景に撮影。フリースなどの色彩が初夏の陽光に映えていました。


開発に3年 課題を克服し環境への負荷低減を実現


今回、発表した最新コレクション。完成までの道のりは容易なものではありませんでした。会場ではその過程についてハイケムのファッション・アパレル部の瀧本英治部長が集まったメディアなどに説明しました。

PLA100%のフリースは耐久性や耐熱性をどう確保するかが課題でした。バイオ由来のPLAは石油由来のポリエステルと比べて耐久性や耐熱性が低く、フリース生地の開発は試行錯誤が続きました。今回の製品の完成までにかかった期間は約3年。現在も改良を進めており、より快適で機能性の高いフリース生地の実現に努めています。


また、デニムとチノ・カーゴパンツも環境への負荷低減を実現した製品です。ジーンズをひとつ作るためには約7,500リットルの水が必要といわれており、これは1人の人間が7年かけて飲む水の量に相当するとされています。原料のコットンは栽培や染色の過程において大量の水が使用されています。そのコットンの代替としてPLA繊維を使うことで環境に優しい製品の実現を目指しました。


このほかPLAを使ったニット素材フレンチスリーブブルオーバーも発表。木材パルプを原料にした再生素材テンセルとの混紡で、春から秋にかけて長く楽しめるサマーニットとなっています。

会場は登録有形文化財の建築 伝統と現代技術を融合したイベントも


さて今回の最新コレクションが発表された会場は東京・千代田区にある「kudan house」。100年近く前、昭和2年(1927年)に建てられたスペイン風の洋館で、かつては実業家・山口萬吉の邸宅として使われました。都心にありつつも東京大空襲やバブル期の開発の波などを乗り越え、ほぼ建築当時の姿を残した貴重な建築物として登録有形文化財に登録されています。

5月24日と25日、ここで「Craft x Tech」(クラフトテック)というイベントが開かれました。日本各地の伝統工芸と現代的なアイデア・テクノロジーを繋いで日本文化の中に新しい発見をもたらそうという試みです。今回の展示では、山形県の置賜紬や岩手県の南部鉄器など東北6県の伝統工芸の産地と、アートの第一線で活躍するSabine Marcelisさんや落合陽一さんなどのクリエイターがタッグを組んだ作品が並びました。ハイケムはこの取り組みに共感し、スポンサーとして参加しています。

そしてHIGHLACT®の最新コレクションが発表されたのはこのイベントの内覧会の日。アートへの関心が高い招待客やメディア関係者もハイケムが新たに提案するサステナブルな装いに目を輝かせ、関心を寄せていたようでした。

特別対談「デザインと繊維産業の未来」
ハイケムの技術力で文化としてのファッションの進化を

最新コレクションの発表後、この「Craft x Tech」の発起人であり、総合プロデューサーを務める吉本英樹さんとハイケムの高裕一取締役が特別対談を行いました。テーマは「デザインと繊維産業の未来」。ハイケムが先進的な技術によって開発する新素材が、アートの視点からどのような魅力を持つのか考える貴重な対談となりました。

吉本英樹さんは東京大学先端科学技術研究センター先端アートデザイン分野の特任准教授を務め、自身もクリエイターとして活動。デザインとテクノロジーを融合させる手法で世界的なブランドにも数多くのデザインを提供しています。

高取締役「アートやデザインがカーボンニュートラル達成に大切な役割となる」

対談ではまず吉本さんが「人間の心」というキーワードを提起。東大の先端科学技術研究センター内にアートデザイン分野があることの経緯や意義について触れ、「AIやバイオ、メディカルなどの先端技術で社会の課題を解決していこうと様々な取り組みが行われているけれど、それでも解決できない領域があって、それは心の問題です。科学技術がどれだけ進歩しても『人間の心』は科学だけでは動かない。それを解決するヒントがもしかしたらアートやデザインといったものの中にあるのではないかと考えています」と述べました。

これに対して高取締役は「今取り組んでいるファッションの分野は他の商品と比べても非常に文化と密接だと考えています。ハイケムで環境負荷の少ない原料を使って洋服の素材を作ろうと思い立ったのも文化と直接結びつきやすい事業を始めたいと考えたから。カーボンニュートラルを達成していくために人の心に直接届く文化、アートやデザインの役割がとても大切だと感じており、それは『人間の心』の問題でもあるのだと、ビジネスの分野でも広めていくことが必要だと考えています」と答えていました。

吉本特任准教授「ハイケムの凄さは高い技術をファッションの進化に繋げること」

ファッションという文化を通してカーボンニュートラルを目指すことについて吉本准教授は「ハイケムの姿勢が素晴らしいのはそれを技術力で実現することだと思います。ファッションの消費の回転が速くなっている中で、ハイケムは新しいものを作るときに上辺だけで変化を追うのではなく、テクノロジーが根底にあるのが凄み。そもそも服は人間が作り出したもので、自然の中にある素材に加工を施して人工物として生み出したもの。それは技術のあり方そのものだから、技術の進化がファッションの進化にも繋がっていくし、未来を作っていく」と評価しました。

吉本特任准教授「科学が進歩しても人間は肌触りの感覚を失わない」
高取締役「繊維産業は日本経済の祖業 技術の継承にアートの発信力を」

その上で吉本准教授はファッションの進化と「人間の心」との関わりについて「人間はとてもフレキシブルで順応性が高い。だから技術が進歩すればそれに合わせて未来を作っていくと思う。でもその一方で、人間はどれだけ技術的に賢くなってもキャンプして海や川で泳いで楽しんだり、お酒を飲んで騒いだり、服についても肌触りがいいとか今だにいったりしています。これから100年や200年経って技術が進化していっても、その中に肌触りの感覚のような本能的で動物的な部分は失われない。それが文化なのだという気がしています」と語りました。

そして高取締役は文化としてのファッションを支える繊維産業について「『Craft x Tech』が掲げている伝統工芸と技術というテーマの作品を会場で見て、繊維産業は日本経済にとって祖業といってもよいということを実感しました。戦前も戦後の高度成長の原動力となったのも繊維産業。ただ日本が今のまま人口が減り、市場が小さくなっていくと人類にとっての宝といってもよい技術が継承されなくなってしまう。この貴重な技術を継承させていくためには、アートやデザインといったものの持つ発信力を借りなくてはいけないと考えています」と、今後も消費者にとって魅力ある製品を送り出していく考えを示しました。

ハイケムの欧米進出 日本というブランドと自由な発想、デザインが鍵に


都心に残された貴重な文化財のスペイン風洋館。そこを会場に開かれた日本の伝統産業と現代のテクノロジーを融合させた展覧会。その中で行われたHIGHLACT®の最新コレクションの発表は、日本が培ってきた繊維技術に新たな命を吹き込んでいるハイケムのファッション事業にふさわしい舞台となったと感じています。そのファッション部門が現在、積極的に進めているのはヨーロッパ市場のさらなる開拓です。

これからの展開に「人間の心」との関わりがどう生かされていくのか。イベント後、高取締役に聞きました。

高取締役「実際にヨーロッパを何度も訪れてみるとデザインやアートへの感度がとても高いと感じています。そのヨーロッパでも繊維産業だけにとどまらず日本の製品が素晴らしいのは知っていると多くの人たちがいいます。ではその高い品質の製品をカーボンニュートラルの面でどう解決していくかという課題を考えると効率化やコストといった製造プロセスの話になってしまう。確かにそれも大事なのですが、もっと自由な発想で取り組んでいくことが大切だと考えています。現地での日本の繊維産業のブランド力は凄いです。他の生産国に比べても日本には一日の長があり、もっと強くしていくべきで、今後もデザインなどで『Craft x Tech』さんの知恵も借りながら魅力ある製品を作っていきたいと考えています」

高い技術力を背景にファッションの分野でもさらなる成長を遂げようとしているハイケム。引き続き注目してください !


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