HighChem Insights 2023年03月01日

『ハイケムのC1事業』低炭素社会の切り札
ハイケムが誇るC1技術に迫る

ハイケムの社内の事業にスポットをあてた「HighChem Insights」。第三弾は「C1事業」についてです。C1ケミカル事業部の小西秀明事業部長にハイケムのC1事業について解説いただきます。

——ハイケムのC1ケミカル事業の中核となるSEG®技術とはどのような技術なのですか?

小西事業部長 SEG®技術とは合成ガス(一酸化炭素と水素)を原料とし、エチレングリコール(ポリエステル製造原料の一種)を製造する技術のことです。原料には、石炭、天然ガス、産業排気ガス、バイオマスなどの幅広い原料を利用することができます。そのため、各種廃ガスやバイオマスを有効利用したり、CO2をCOに変換する技術と組み合わせCO2を原料とする等、CO2削減効果が見込めるエコな技術として注目を集めています。

——ハイケムはこのSEG®技術の中国企業へのライセンス事業を進めてきました。これはどのような事業なのでしょうか。

小西事業部長 ハイケムは、UBE株式会社(以下UBE)の技術で石炭のガス化からDMOを製造し、そのDMO
から当時はラボレベルであったUBEのエチレングリコール製造技術商業化・スケールアップすることで、UBEのファインケミカルの技術をベースにエチレングリコールという汎用化学品を製造するという技術を確立し、SEG®ライセンスビジネスとして展開しました。まさに「ファインケミカルから汎用化学品を作る」という180℃発想の転換です。技術の商業化・スケールアップに当たっては、中国でリスクを共有できるパートナーと共に、パイロットプラント建設などを経て商業化に成功、そこから中国という一大市場で大々的にライセンス展開するとともに随時スケールアップしていったのです。そしてこれらの道のりをわずか10年というスパンでやり遂げました。

このエチレングリコールは汎用化学品の中でも中国で巨大な市場を有する化学品ですが、SEG®製法で4割強のシェアを占めるまで成長させました。これはライセンス契約数23件、総生産能力は約1000万トンという規模。日本全体で合わせても100万トン規模なので、ハイケムのライセンス先だけで日本の10倍の規模というわけです。汎用化学品の世界では新技術は生まれづらいということを考えても、1千万トンというのは異例の大ヒットといっていいと思います。

——SEG®技術を使用したエチレングリコールの製造の主な原料は石炭になりますね。

小西事業部長 原料に視点を移すと、従来法のエチレングリコールの原料は主に石油で、中国では輸入に頼らざるを得なかった。中国国内で大量に採れる石炭という資源を活用し、国産化に結び付けることができたということも中国国内の視点に立てば大きい意味があります。また今まで発電に使っていた石炭を化学製品に変えるという付加価値に加えることができたという点も評価されました。また、炭素を燃やしてCO2にするのではなく、炭素を物質に固定化するという点で昨今の低炭素化の時流にもうまくのっかることができたのです。また、石炭をガス化することで一酸化炭素と水素が発生するため、今後の低炭素化の切り口になり得る「水素」という切り口においても中国の関係者としっかりとした関係を構築することができました。

——SEG®ビジネスのもう一つのコアバリューである「触媒」の内製化についても教えてください。

小西事業部長 SEG®ビジネスを語る時に忘れてはいけないのは「触媒」の内製化です。SEG®の根幹技術である触媒の自社工場を南通に設立し、研究開発拠点を日本の柏と南通に開設しました。これにより「質的な発展」はもとより「量的な発展」を追求する体制を構築できたのです。日本は触媒の技術は持っていても、量産体制が乏しい。だから国際競争力をつけることができなかったという歴史があります。日本企業としてこれだけの量産体制を中国で整え、実際に開発した触媒をスケールも含めて競争力を確保できる体制をしっかり構築することができたのは、SEG®ビジネスにおける大きなコアバリューといってよいでしょう。そして、この触媒技術は、様々な触媒への横展開が可能で、今や触媒のOEM製造事業にも繋がっています。

南通触媒工場

——低炭素社会に向けた取り組みとしてC1事業を展開するという方向を示されていますが、ハイケムのC1事業は今後の展望もお聞かせください。

小西事業部長 いよいよライセンス事業も佳境となり、ハイケムは今までの集大成として石炭の巨大産地でその権益をしっかりと保持した陝西煤業の180万トンSEG®プロジェクトに出資参画しました。

楡林の180万トンのSEGプラント

これは今までのように「面白い技術を売る」というだけのステージから「面白い技術を武器に、優良事業権益を得て、自らやりたいことをやる」というステージになったという点で収益力のみならず影響力が全然違う。新たな技術開発や事業展開も含めてこれまで届かなかったところに主体的に関与していけるようになったのです。

自然界にあるもの(石炭・石油・天然ガス等)って例えば石油でも主にC6からC12ぐらいの炭素の塊ですが、C1ケミカルとはこれらをバラしながら、C1まで分解してそこから好きなものを合成していくという技術です。そしてこの中にC1のCO2も含まれているということが今注目を集めている所以です。今、世界中でCO2からいろんなものを作りたいという人が出てきてそこに注目が集まってきています。

我々が参画するCO2からパラキシレンを製造する技術開発もまさにNEDOを通じて国からの受託事業としてパートナー共々日夜開発に励んでおります。世の中はカーボンリサイクルの流れに確実に向かっていて、まだまだどこも様々なハードルを抱えています。そんな中で巨大中国市場を利してSEG®ビジネスを大規模で展開してきたという強みや触媒技術において社会や地球に対し大きく貢献できるポテンシャルを有しているといえるでしょう。

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