カーボンニュートラル時代の石炭化学産業に迫る
北方本部 陳国平総経理 現地インタビュー
楡神工業園区の全景
楡林市内を実際に訪れてみて感じたのは活気のある街であるということ。車で市内に向かう途中、最初に目に留まったのが「I LOVE YOU」の文字。何ごとだと思いよく見てみると、ブライダル専用のフォトスポットだった。また、滞在中は、平日にも関わらず、爆竹を装備した結婚式専用車両が大きな音を響かせながら楡林市内を走り抜け、宿泊したホテルのバンケットルームでは盛大な結婚式が行われていたのが印象に残った。市内には多くの幼稚園や学校、国家AAAA級の巨大な遊園地もある。石炭で潤うこの街にはたくさんの若者や子育て世代を引き寄せているのだろう。
今回は、ハイケム北方本部の陳国平総経理へのインタビューと現地での滞在を通して、カーボンニュートラル時代にも発展する楡林市の石炭化学産業の今とハイケムの現地での事業戦略に迫ってみた。
楡林市の様子
花嫁専用車の行列
高化学(陝西)管理有限公司 陳国平総経理
──陝西省楡林市とはどのような地域ですか?
楡林市は陝西省の北側に位置し、山西省、内モンゴル、甘粛と近隣する、4つの省が交差しているところです。楡林市は中国のクウェートと呼ばれるくらい資源が豊富で、中でも石炭や天然ガスが豊富です。石炭も天然ガスも中国貯蔵量の10%を占めているといわれるほどです。
中国の化学産業の発展方向を見てみても、沿岸部が石油化学の中心地となりますが、内陸西部は石炭化学が盛んで、楡林市は中国4大石炭化学産業モデル区の一つに数えられています。
また、自然も豊かで太陽光発電、風力発電のポテンシャルも大きくあります。
──楡林市の石炭化学コンビナートの特長を教えてください。
第一の特長として、楡林の石炭は発熱量が高く、リンや硫黄などの不純物の含有率が低い高品質な石炭であるという点があげられます。石炭化学では、石炭をガス化するプロセスがあり、不純物が低いほど処理コストを抑えることができます。このことが、楡林の石炭化学コンビナート内で生産される化学製品の競争力を高めています。
もう一つの特徴は、中国の大手エネルギー企業の集積地であるという点です。例えば、国家能源集団や中煤集団、延長石油などがいずれもこの石炭化学コンビナートへ1,000億元を超える投資を計画しています。我々と合作している陝西煤業グループも今年、再び大規模な石炭化学投資に着手し、総投資額は2,000億元を超えます。
──ハイケムは楡林でどのような事業展開をしているのですか?
ハイケムと楡林の関係は2014年にさかのぼります。日本の大手リサーチ会社と合同で陝媒集団楡林化学(以下、楡林化学)の園区におけるプロジェクトの全体計画に参画しました。
そして、ハイケムの楡林における最初の大きなプロジェクトは技術ライセンスです。まずは、楡林化学が計画する世界最大の年産180万トンの石炭からエチレングリコールを製造するプラントに対し、ハイケムが保有するSEG®技術のライセンスを行いました。
SEG®技術とは、非石油由来でポリエステルの原料であるエチレングリコールを製造する技術です。この技術は、UBE株式会社(以下UBE)の石炭のガス化からDMOを製造する技術のベースに、ハイケムがDMOからエチレングリコール(EG)を製造する技術開発しスケールアップ及び商業化させ、SEG®技術として確立、中国で大規模にライセンスビジネスを展開しています。
楡林化学の180万トン/年SEG®プラント
また、UBEの合成ガスを原料にしたリチウムイオン2次電池電解液の溶媒であるDMCを製造する技術についても、楡林化学にライセンスしました。DMCのプラントは第1期10万トン/年のプラントが2024年9月に完成予定で、第2期の40万トン/年のプラントは2025年末には完成する予定です。全て完成すれば50万トン/年となり、こちらも世界最大級の生産規模となります。
DMCプラントのオフィス
更に、ハイケムはこれらのプロジェクトに対し、ライセンスだけでなく事業投資も行っています。現地での事業運営を円滑に進めるため、2021年に北方本部を設立し、プラントのある楡神工業園区内に事務所を設置しました。
2022年9月には先述した180万トン/年の石炭由来のエチレングリコールを製造するプラントが完成。このプラントは早くも稼働1年でフル生産を実現していて、その価格競争力の高さから、中国全体の石油法を含めたエチレングリコール生産量の10%以上を占めています。
また、昨年度には、これらの楡林で生産される基礎化学品を販売する合弁会社を楡林化学と共に立ち上げました。エチレングリコールやDMCなどの楡林で生産される化学品の販売を中国国内だけでなくグローバルにも展開しています。
このように、楡林においてハイケムは、事業計画から技術提供、事業投資、それから製品の販売にいたるまで、トータルなビジネスソリューションを提供する重要なポジションを築いています。
──中国においてもカーボンニュートラルの政策がとられています。そんな中で石炭化学は今後も発展の方向に向かうのでしょうか?
そうですね。石炭化学において、CO2の排出量についても厳しく管理されるようになってきました。政府の手続きも以前より厳しくなり、石炭化学発展のためには再エネ利用やグリーン水素、CCUSなど、よりグリーンな事業環境の整備や成長戦略が至上命題となってきています。
ハイケムでは、昨年楡林市の市長や工業園区の主任と共に、日本を訪問し、カーボンニュートラルに取り組む日本の三島市役所や日本企業との交流の機会を持つなど、CO2の削減について取り組む準備を進めてきました。
まさに、石炭化学の発展のためには、CO2などの温室効果ガスの排出削減、そしてCO2の利用についても真剣に考えていかなければいけないでしょう。
まず、温室効果ガスの排出削減については、再生可能エネルギーの利用や循環のための最新の設備の導入による、省エネの実現が不可欠です。
石炭化学コンビナート内の風力発電施設
また、CO2を利用して化学製品を製造する、いわゆるCCUの技術開発も必須です。現在、メタン(CH4)や水素(H2)、一酸化炭素(CO)などの原料を風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用して生産するべく、技術開発や環境の整備を行っています。現在は、これらの再生可能エネルギーのコストは石炭化学よりも高いですが、将来的には同等か、それ以下になってくるでしょう。
ハイケムは、バイオマスや空気中のCO2からグリーンなエチレングリコールを製造する技術を開発中です。現在、実証段階であるこの技術は、工程と技術に問題がないことが実証され、コスト管理と川下の顧客が受け入れてくれるかどうかについての課題がクリアできれば、大規模な生産も可能となってくるでしょう。
まさに、楡林のような石炭の一大産地は、新エネルギーとうまく融合していく道を歩んでいく必要があるのです。
──カーボンニュートラル時代にリーダーシップを発揮すべく、ハイケムは楡林市でどのような事業展開を行っていきますか?
ハイケムはこれまで、生分解性材料などのグリーン繊維、Lib二次電池材料や水素など、持続可能な社会を実現するための技術開発に注力してきました。
生分解性材料については、PLA(ポリ乳酸)繊維を開発し、HIGHLACT®(ハイラクト®)ブランドを確立、現在は欧米の顧客に向けた市場開拓を行っています。この分野については、楡林で石炭やCO2から製造できるPPC(生分解性ポリプロピレンカーボネート)などの生分解性材料の製造を行っていく予定です。
また、DMCやEMCなどの二次電池材料についても、資源が豊富な楡林にとって、電解液の製造コスト、使用シナリオ、輸送コストなどを鑑みても、電池材料という新しいエネルギーの生産にとって素晴らしい場所になってくるでしょう。
ハイケムではこれらの技術力や強みを発揮して、ここ楡林において、そして世界に向けたプレゼンス向上を図っていけるものと確信しています。