「グローバルな市場を開拓する人」座談会
第一弾:欧米市場の開拓
AIジャパン株式会社 二宮社長
経営するAIジャパンが2023年にハイケムの傘下になりハイケムグループの一員に。
アクリル系商材やハイケムの既存の化学製品の欧米市場開拓に挑む。
ファッション・アパレル部 瀧本部長
大手IT企業でファッション関連のビジネスに従事した後、2023年にハイケムに入社。
ファッション・アパレル部門の部長としてPLA(ポリ乳酸)繊維を中心としたサステナブル素材の欧米市場の開拓に挑む。
──ハイケムに入社する前のお二人のグローバル事業開拓のご経験を教えてください。
二宮社長 私は今年で66歳になるのですが、仕事人生の45年間のうち25年以上は海外で仕事をしていることになりますね。
最初は大手総合商社の化学品部に就職して、スペイン、シンガポール、タイでの駐在を経験しました。シンガポール駐在の時に、現在の商売に繋がるアクリル系の商材に出会いました。それから、46歳の時に、中国でビジネス拡大のチャンスがあると踏み、AIジャパンを起業しました。AIジャパンでは、シンガポール時代にコンペティターであったイギリスのマイク・ウィルキンソン氏と協力関係を構築し、日本と中国のアクリル系商材について、欧州を中心にした市場を切り開いてきました。
そして、2023年からはハイケムの傘下に入り、ハイケムの既存の化学製品についてのグローバル市場開拓にも関わっています。
瀧本部長 米国の大学を卒業後、大手機械メーカーにて水処理や排ガス処理プラントの営業職につきました。最初は国内営業だったのですが、海外営業の部署に配属になり、北米、香港、台湾を担当後上海に駐在しました。インフラの事業なので、官公庁や空港、石油精製所のような大企業への営業です。誰も知らない海外でゼロから大きなビジネスを切り開いていく醍醐味を経験させてもらいました。
そんな中、実際に会社を立ち上げるような仕事に携わるようになり、自分でもできるんじゃないかと考え、起業したいという想いを持つようになりました。自ら企画したアイデアがスタートアップのコンペで受賞することになり、退職後に起業家としての道を選びました。その会社は途中で資金不足になってしまったんですが、その後もスタートアップを起業し、いくつかの会社のイグジットを果たしました。
その後は新しい経験を積みたいと考え、大手IT企業に就職し、ファッション部門にてプライベートブランドの立ち上げの事業に携わりました。その会社は常に新しいビジネスが醸成されるカルチャーがあって、すごく僕にフィットしていました。すごい数の新規ビジネスが毎日生まれては消えていくんですね。そこで3年の事業計画を立ててうまく軌道に乗せました。
昨年、ハイケムへ入社したのは、化学の会社なのにファッションをやりたいと言っていて、面白い会社だなと思ったからです。ゼロベースで物事をスタートしようとしている会社みたいなので、しがらみが少ないから面白いだろうなと思ったのが入社したきっかけですね。
──お二人とも面白いご経験をお持ちですね。
お二人のハイケムでの現在のミッションを教えてください。
二宮社長 2023年にAIジャパンがハイケムの傘下に入って、やっぱり期待していただいているのは、AIの欧米市場のコネクションだと思っています。今私が感じているミッションは、既存事業であるアクリル系商材も含めたハイケム製品の欧米市場の開拓ですよね。
瀧本部長 私のミッションは、ハイケムの取り扱うPLA繊維をはじめとするサステナブルな素材を、いかにファッション業界に浸透させるかということです。サステナブルな市場ということになると中心は欧米です。ですから、基本的には欧米の会社をどう口説いてファンになってもらえるか、というのが一つの大きな仕事かなと捉えています。
──具体的にはどのようなお仕事になるのですか?
二宮社長 私の場合は、主にアクリル系及びメタクリル系の上流、下流の商材について欧米市場の開拓を行っています。現在、欧米ではアクリル商材については、マーケットはあるのですが、メーカーが環境規制や地政学的な事情で原料が入手できないような状況にあり、減産の方向に向かっています。このような状況において市場を切り開くために、主に2つのことに着手しています。
1つ目は人脈づくりです。
アジアにいて欧米の顧客の実情を把握するのはなかなか難しい。そこで、現地のマーケットや顧客をよく知るパートナーを見つけることです。AIジャパンの共同創業者であるマイク氏もその1人ですが、彼らを通じてマーケット開拓を行うというのが1つの戦略です。
そして2つ目は、サプライチェーンの構築です。
現在、地政学的な事情により海上輸送の運賃は高騰しています。また、欧米に原料を輸出する際にかかってくる関税も商売をする上での大きな障壁になっています。ですから、これらの障壁を回避できるようなモノの輸送手段を考え、実際にサプライチェーンに落とし込む努力が必要です。そのためには、荷物の特性やマーケット、顧客を理解し、ソーシングの方法なども構築しなおす必要が出てきます。そのためにも、欧米の化学メーカーの会議などに出席し、メーカーとの関係構築みたいな仕事をやっていますね。
瀧本「事業開拓は窓が開くまでしつこく地道に数を打っていくマインドが必要」
瀧本部長 僕の場合は、欧米のアパレル業界にハイケムのサステナブル素材を採用してもらう仕事になります。欧米のアパレル業界に対して特別なコネがあるわけではないので、完全にゼロからのスタートと言えます。
1つ目の手段は、広報と共同で行っている現地メディアへのPR活動ですね。
現地のメディアに取り上げてもらうとか、現地の学会に参加して発言するとか、とにかくアパレル業界にハイケムの取り扱うサステナブル商材を知ってもらう必要があると考えています。
もう1つは、欧米のファッションブランド、生地メーカーとの関係構築です。
全くコネがない状態からのスタートなので、片っ端から飛び込み営業している状態ですね(笑)。
生地メーカーはイタリアだけでも5000社程あるといわれています。その中で、ハイケムの製品に興味を持ってもらうメーカーはどこなのかなんて事前には分からない。それこそ、SNSや現地のメディアを読んで、興味のありそうな人を見つけたら片っ端から声をかけるというような感じです。
とにかく数打って、しつこくやっていると、振り向いてくれる人が絶対どこかにいる。実際、イタリアでもこちらの連絡に対して1~2%は反応があり、現在は20社ほどの生地メーカーと共同開発の話を進めています。
グローバル市場の開拓には、とにかく量をこなして、地道にやっていくしかないと僕は思っています。
──まさに道なき道を切り開く感じなんですね。どんなマインドが必要なんでしょうか?
瀧本部長 しつこくずっとやり続けて、どこかでチャンスにぶつかるまでやってやろうというマインドですね。
これはたぶんほとんどのスタートアップ企業が持っているマインドなんですが、海外のドアをノックするとき、本当にしつこくたたき続けて、ドアをノックしても出ないのであれば裏手に回ってノックしてみようか、だめなら次は窓みたいな。
それぐらい考えて本気で行動できるかどうかだと思うんですよね。
本当にしつこく数を打っていく。グローバルな事業開拓はそれに尽きると思います。
直面する大きな壁とは?
──これまでに直面した一番の困難な経験を教えてください。
二宮「こちらが誠意を持って相手に理解を示せば、文化が違っても誠意は返ってくるというのが僕の信条」
二宮社長 文化やメンタリティの違いはグローバル展開するときの障壁になると思います。
僕が一番ショックを受けたのは、初めてスペインに行ったときでした。スペインは文化から考え方まで、我々東洋人とはまったく異なります。
商社時代にスペインに駐在した時、最初の2~3ヵ月はスペイン語の学校に通うわけですが、そこの先生が「東洋人は良いものをどんどん作っていて素晴らしい。僕たちはそれを使って楽しませてもらう」と言うんです。さすがに複雑な気持ちになりましたね。
でも、スペインはそういうメンタリティなんですね。スペインには「Hasta mañana(アスタマニャーナ)」という言葉があります。「明日またな」という言いで、日本語の音とも似ていますよね(笑)。挨拶に限らず、明日できることは今日やらなくていい、明日できる仕事は明日にして、今日を楽しもうという考え方なんです。
これは日本とは大きく違う、ラテン系の特徴だと僕は思います。東洋の考え方とは馴染まないし、当時は僕も若かったから異文化ギャップを感じて苦労しましたね。
だけど、カルチャーショックを受けたからといって、それを引きずっていては仕事になりません。東洋的なやり方を向こうに押しつけたって受け入れられませんし、受け入れてもらえないと人脈も作れないですよね。日本人としての誇りは持ちつつも彼らの考えを受け入れ、その上でこちらも理解してもらう。そうすることでスペインにいた7年間は色々なことができました。
東西の国や地域を問わず、こちらが誠意を持って相手に理解を示せば、文化が違っても誠意は返ってくるというのが僕の信条です。それが信頼関係や人脈を作り、事業を展開するうえで大切だと思います。
瀧本部長 確かに、信頼関係を築けているとスピード感も違いますからね。信頼していない相手だと、発言内容が正しいのか、信じていいのか、全部チェックしないと進められません。でも、信頼関係ができていれば「この人が言うのならやってみよう」って思えます。それは国とか文化が違っても絶対あることです。
グローバル開拓のカギは、信頼関係の構築
──なるほど。信頼関係の構築がグローバル事業を構築する上で重要だということですね。
二宮社長 グローバル開拓する上で現地パートナーが必要なのも、事業には信頼が重要だからです。何もない状態から信頼関係を築くには時間も費用もかかります。でも、現地企業と信頼関係ができているパートナーがいれば、ゼロからのスタートではありません。パートナーを通じて現地企業と繋がりを作り、信頼関係を築けます。それをできる相手がいることが人脈だと思っています。
瀧本部長 深い付き合いができるだけの信頼関係ができていないと、契約を交わしても効果が薄いですからね。
二宮社長 AIジャパンが扱うアクリル系商材は、コモディティなので、品質に大きな差が出る素材ではありません。信頼獲得には性能や技術力そのものより、顧客が何を求めているか察知して提案できるかが重要です。
──異文化の人と信頼関係を構築するためには何が必要ですか?
瀧本部長 自分も一生懸命やるってことじゃないかな。一生懸命やっている人には手を差し伸べてやろうって気になるし。この人だったら大丈夫だろうなってことに繋がります。
二宮社長 本当にその通りですね。50歳の時に中国のアクリルメーカーと合弁で会社を立ち上げたのですが、その時は、1年以上かけて足しげく中国の社長のところに通ったのが信頼獲得に繋がりました。しつこく通い続けた結果「全然商売もないのに来てくれて、色々な情報をくれる」ということで一緒に会社を立ち上げようという話に繋がったんです。
グローバル事業開拓の必須スキル:「自燃性」になること
瀧本「グローバル市場で活躍できるのは断然、自燃性の人」
──これまでのお二人のご経験から、グローバル市場で活躍する人材にはどのようなスキルが必要だと思いますか?
瀧本部長 自分で考えて行動する、仕組みを作って困難を切り開ける能力が必要だと思います。
僕の好きな経営者・稲盛和夫さんの本の中に、従業員を「不燃性」「可燃性」「自燃性」という3種類に分ける考え方があります。
「不燃性」の人は、燃えるようにアツく仕事をする人が近くにいても、なんか斜に構えているというかネガティブで、できない理由ばかり挙げて仕事をやろうとしません。「可燃性」の人は燃え上がる人が近くにいれば、一緒に燃えてくれます。そして、「自燃性」の人は自分でミッションを考えて、回していける人です。グローバル市場で活躍できるのは断然、自燃性の人です。
二宮社長 それはすごく重要な考え方ですね。僕はいつも「自分でレールを敷けるようになれ」とスタッフに言っていますが、今の話だとこれは自燃性の人になれということです。
瀧本部長 自燃性であるかは主体的に考えて行動するオーナーシップにも関わってきますから、すごく重要なマインドセットだと思います。
──自燃性のスキルは後天的に身につけられるものなんでしょうか?
瀧本部長 最初から燃え上がっている人はいないと思いますし、これは後天的にしか身につかないスキルだと思います。
二宮社長 ただ元々のやる気は必要ですよね。最初から斜に構えていたのでは、何も吸収できないと思います。
瀧本部長 そうですね、不燃性の人は「こんな問題が発生しました」と、問題を報告するだけの場合が多いんですよ。それだと上司は持ち込まれた問題を精査して、解決策を考えないといけないから、非常に時間を取られます。
対して自燃性の人たちは、問題と共に自分で考えた解決策も持ってきます。「こういう問題が発生して、解決にはこれが必要です、だからこれをやらせてください」と言ってくるので、この違いはすごく大きいです。
解決策まで考えて、それが最善である理由まで伝えられる人は絶対昇進します。そして、昇進した際には部下にも同じようなマインドセットを求めますから、会社全体として意思決定も早くなっていくと思います。意思決定のスピードが上がると自分の意思がどんどん形になっていくので、チーム全体としても仕事が楽しくなると思います。
あとは、すぐにマスターできるわけではないですが、やはり言語はマストだと思います。言語ができないとそもそものコミュニケーションが成り立たないので、信頼関係も作れません。
二宮社長 確かに。じゃないと、現地の人と話ができませんからね。
──最後に、今後の目標を教えてください。
二宮社長 欧米のマーケット開拓や事業展開を進めるにあたって、新しいサプライチェーンを構築することですね。ハイケムにはアメリカとヨーロッパに現地法人があるので、積極的にコラボして展開していくのが目標です。欧米にも結構大きなメーカーがありますから、そういったところと接触を図ることで必ず実現させていきたいです。
瀧本部長 僕としては、ハイケムの素材が有名ブランドでちゃんと使われている状態を作りたいと思っています。ハイケムが作るトウモロコシ由来のPLA(ポリ乳酸)・HIGHLACT®(ハイラクト®)が、有名ブランドのベストセラー商品にも使われる状態になれば、販路拡大や人材採用にも役立ちます。チームの資金力にも関わるでしょうし、そこは絶対に実現させたいです。
あとは、C1ケミカル事業で進めているCO2由来のポリエステルをどこかのメーカーが使ってくれたらと思います。まだ作れる量は限られていてコストも高いですが、実用的なレベルで生産体制が整えば、空気からアパレル素材を作る未来が実現します。こんなことが実現できる会社はハイケムのほかにはないですからね。