『ハイケムのC1事業』「ファッション・アパレル」に取り組む理由
サステナベーション本部 高裕一本部長インタビュー
——2023年にファッション・アパレル部門がハイケムに設立して、驚かれた方も多いと思うのですが、この分野にとってC1ケミカルはどのような意味を持つのでしょうか。
高裕一本部長 何でアパレルなのかということですが、きっかけは確かにPLAです。PLAをいかにして販売していくかというところからスタートしました。PLAに取り組む中で様々な課題が出てきたけど、やっぱり最大の課題はコストです。10年前に日本で開発されていたのに、PLAがなぜ普及しなかったかというと、やはり物性がポリエステルとほぼ同じであるのに対し、コストが10倍も20倍もしてしまうから。近年は世界的なカーボンニュートラルや中国の量産化の流れを受け少しずつコストが下がってきていますが、まだまだコストの課題はついて回ります。そんな中、PLAに付加価値をつけて展開していこうとしたときにアパレルというのは一つの良質なコンテンツだった。ただし、PLAをなんとなく加工してみましたというのではやはり会社全体の新規事業として位置付けるのは少し弱いなという気がしていました。
アパレル事業であっても、着想起点はC1ケミカル
そんな時にC1事業の中でCO2からパラキシレンを製造するNEDOの計画が立ち上がってきた。最初パラキシレンって何?というくらい僕は化学の人間ではないのですが、ポリエステルの原料の片割れですよということを聞いて、「じゃあCO2から洋服の半分が作れるな」と思ったんです。そして残り半分のエチレングリコールもC1技術を以て実現できるといいます。即ちC1ケミカルをもってすれば、CO2から洋服を作れるということなんです。更に、PLAが現状抱えている強度とか耐熱性の課題を解決するために必要な技術についても、C1ケミカルが大きく関わっているなということが分かってきた。じゃあ将来的にアパレルを出口とすることで、社会に対する価値を最大化できると思いました。アパレル事業であってもやっぱり着想の起点はC1ケミカルであって、ほんとうに根幹になっている。
ファッションというのは生活と日常の中に当たり前にあって、でもただ消費されるだけの袋やストローやペットボトルとは違って、みんなが自分という人間の生き方や考え方、価値観の体現の手段としている。そういうものは実はそんなに多くないし、そこにはただ消費されて捨てられるものにはない、だからこそ大きな事業としての価値がある。
もうひとつ、アパレルの事業というのはヨーロッパのハイブランドが起点なんですよね。まず彼らの特徴として糸一つ買うにしても値段よりはストーリーやコンセプトで買う。なぜならブランド価値を毀損することが彼らの最大のリスクであって、多少の原料の価格差などそれにくらべればたいしたことではないからです。そして今、カーボンニュートラルという価値をアパレルの世界に浸透させようとしています。彼らのいうカーボンニュートラルをかなえていくためにはコンテンツを生み出す力というのももちろんそうなのですが、ちゃんと生活に根付いていけるくらいのコストとスケールを兼ね備えた新しい素材を開発し発信していくということが重要です。ですから、PLAをCO2から開発していくプロセスの開発、それぞれの素材と加工プロセスにおいてCO2の削減量を明確化するなどの筋肉質なサプライチェーンを構築していくこと、そしてこれらの高付加価値なサプライチェーンのコストを吸収できるヨーロッパのマーケットに攻めていくために、できればパリかミラノに拠点を開くことを将来的にハイケムとしてはチャレンジしていきたいと考えています。
なぜハイケムがアパレル事業に注力するかという話に戻るのですが、C1ケミカルのビジネスが立ち上がって、触媒ビジネスや電池ビジネスに繋がっていった。そしてその集大成がアパレル事業になるということです。世界がカーボンニュートラルということを発信しだして久しいですが、まだアパレル業界の根幹を変えるようなサプライチェーンを構築できている企業はいない。その点、ハイケムには素材を起点としてサプライチェーンを構築し、それを発信していけるチャンスがある。アパレル業界にいる人たちだけでは絶対発想できないことだと思います。いかにしてCO2を使ってこれまでのものを代えていくのかということを、技術だけでなく経済合理性も含めて真面目に考えているハイケムだからできることなのだろうと思っています。
そのうえで今取り組んでいるのは、入口としてPLAを市場に投入し新しい素材をマーケットに送り出すという仕事をしています。そして、この前の展示会で発信したような「捨ててもいい服」の進化系という形で、自分たちのブランドを展開するという可能性ももちろんあるでしょう。PLAであれば結局はサーマルリサイクルに繋がります。サーマルリサイクルという考え方はあまりヨーロッパでは受け入れられないかもしれないのですが、それ以外の国であればこの概念をビジネスに落とし込んだサブスク型のビジネスは十分採算があうでしょう。これもやっぱり日本のほかのアパレル企業であれば「捨ててもいい」というのは言いづらい。だからこそビジネスチャンスに繋がるのだと確信しています。