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CO2利用技術で合弁会社設立
カーボンエナジー社 康 鵬CEOインタビュー

ハイケムは、2月19日から21日までの3日間、中国の気候テック企業・カーボンエナジー社と合同でH2&FC EXPO【春】水素・燃料電池展に共同出展した。さらに会期最終日となる21日には、ハイケムとカーボンエナジー社による合弁会社「(株)HighEnergy(ハイエナジー)」設立を発表。合弁会社において、CO2有効利用に関する先進技術の研究開発や技術サポートを二社で推進していく方向性を示した。

本日のレポートでは、新たにタッグを組むこととなった、カーボンエナジー社の創設者である、康 鵬CEOへのインタビューの様子をお届けしたい。康 鵬氏は、天津大学化学工学・大学院教授を務めるとともに、電気化学的CO2利用分野における研究で多数の高水準な論文を発表されており、中国で注目を集める若手研究者の一人だ。今回は、カーボンエナジー社が持つ未来のネットゼロを実現する先進技術とはどのようなものなのか、またハイケムをパートナーに選んだ理由について伺ってみた。

炭能科技(北京)有限公司(カーボンエナジー社)CEO 康 鵬
プロフィール

炭能科技(北京)有限公司(カーボンエナジー社)CEO
天津大学化学工学・大学院教授
1982年生まれ。2004年に中国科学技術大学化学系を卒業後、米国スタンフォード大学にて化学博士号を取得。2010年からはノースカロライナ大学チャペルヒル校 太陽エネルギー燃料研究センターにてポスドク研究員として、CO2を燃料や化学品に還元する電気触媒法を研究。2015年に中国・北京に炭能科技(北京)有限公司(カーボンエナジー社)を設立。

新エネルギー分野の「ベル研究所」を目指し、カーボンエナジー社を設立

──まずは、カーボンエナジー社について教えてください。

「世界のカーボンニュートラルに貢献したい」という強い思いを持ち、私が2015年に北京で設立した研究開発企業です。私自身が天津大学の教授で、大学で新エネルギー分野の研究開発にも携わる研究者でもあります。ですから、カーボンエナジー社は、我々が開発した新しい技術を工業化するプラットフォームにもなっています。

当社のビジョンは、「新エネルギー分野の『ベル研究所』となり、持続可能な未来を創造する」です。ベル研究所とは、米国の半導体分野において革新的な研究開発を推進した機関で、現代技術の基盤となるような、数々の発明を生み出し、社会実装してきました。我々もカーボンニュートラルの分野において革新的な技術を生み出し、これらの技術の社会実装を実現していきたいと考えています。

ハイケムとカーボンエナジーの合作によりCO2からグリーンな化学品を作る産業チェーンが完成

──ハイケムと合弁会社「株式会社ハイエナジー」を設立した理由は?

カーボンエナジー社が注力してきた技術として、CO2とH2Oを電気分解して合成ガスと水素に変換する技術を持っています。そして、ハイケムはC1ケミカル技術で、合成ガスと水素を使ってエチレングリコールを製造する技術を有していて、その技術を世界中でライセンスし、社会実装を実現してきた実績を有しています。両社の技術を融合することで、CO2からグリーンな化学品を製造する産業チェーンが完成することになり、これこそ合作の最大の理由です。

そして、グリーンな化学品製造はもとより、CO2から合成ガスが作れれば、川下のグリーンなメタノールやSAFなどの原料としても活用でき、船舶や航空機の燃料がCO2から製造できる未来が実現できます。また、エチレングリコールがCO2から完成すれば、我々が着ている服やペットボトルのグリーン化が実現できるのです。これらの潜在的なマーケットは非常に大きく、我々が取り組む意義は大いにあると考えています。

中国で着実に進展するCO2電気分解による合成ガス製造技術の社会実装

2020年に内モンゴルに完成した世界初のCO2電気分解の合成ガス製造実証プラント

──CO2を電気分解して合成ガスに変換する技術は、すでに中国では工業化の段階に来ているのでしょうか?

2020年、世界初となるCO2電解による合成ガス生産の実証プラントが内モンゴルの石炭化学コンビナートで完成しました。このプラントの年間生産能力は、30~50トンで、既に4,000時間以上の稼働実績があります。2023年には中国の国家能源集団において、実証プラントが100トン/年の規模で完成しました。2024年には、大手電力会社の楡林能源集団横山煤電公司と共同で、500トン/年のCO2電解による合成ガス製造の工業実証研究を実施しています。今後は数万規模のCO2からの合成ガス製造の工業化技術の確立を目指して開発を進めているところです。

海水のCO2濃度は大気中の130倍!海水からCO2を回収し資源に変換する技術を開発

──自然界のCO2を海水から回収する技術(eDOC)とはどのような技術なのですか?

CO2を回収して化学品を作る際に用いられるCO2は、化学工場や発電所から排出されるものを回収するという考えがこれまでは一般的でした。一方で我々がこれまで排出してきた温暖化ガスは単にこれらを回収するだけでは補いきれないような莫大な量になっています。全般的な温暖化ガスの削減とCO2を資源として捉え、経済的かつ効率的に回収できるようなCO2濃度の高い場所を考えたとき、答えは「海洋」にありました。というのも、CO2などの温暖化ガスは大量に海水に大量に吸着されており、海水中のCO2濃度は大気中の130倍にのぼります。したがって、コスト的な優位性を見ると、海からCO2を回収する方が断然高くなります。

現在、カーボンエナジー社では、海水からの電気化学的なCO2回収技術を開発しています。さらに回収した後の海水にアルカリ性物質を加えて、元の弱アルカリ性に戻すことで、海水が再び大気中のCO2を吸着できる状態に戻しています。すなわち、このプロセスを連続で実施することで、大気中のCO2は徐々に減少し、最終的にカーボンニュートラルを実現することができるのです。


──これらの技術開発はどのような段階に来ているのですか?

今年、臨海地区でeDOCを用いた、10トン/年の実証装置が立ち上がる予定です。ここでとったデータを基に年間数万トン規模のパイロットを今後立ち上げていく予定です。

──水素製造やレドックスフロー電池の開発にも研究開発の幅を広げていらっしゃいますね。

そうですね。我々が培ってきたCO2電気分解の技術が、カーボンニュートラル実現に向けた、様々な技術にも貢献できると考えています。そこで現在、我々が注力したい分野をピックアップし取り組んでおり、いくつかの技術は既に商業化を果たしています。

特に、CO2からグリーンケミカルを作る産業チェーンの技術開発の過程で完成した部材や設備などを他の分野にも応用できることがわかってきました。例えばリチウムイオン電池より安全性が高く、寿命が長いレドックスフロー電池のシステムには、CO2電気分解のスタックや隔膜技術が応用できます。また、隔膜技術は水素製造の分野に応用できました。グリーン水素製造材料については、既に中国国内において販売実績も有しています。

カーボンニュートラルに向けた革新的な技術をグローバルに展開

H2&FC EXPO【春】水素・燃料電池展にて(2025年2月19日~21日開催)

──最後にハイケムとの合弁会社設立において、ハイケムに期待することを教えてください。

新技術の社会実装において深い知識と確かな実績を持つハイケムと協力関係を深められたことは当社にとっても大きなチャンスであると捉えています。また、ハイケムはスローガンとして「We are the BRIDGE」を掲げていますね。ハイケムの架け橋としての役割を通じて、我々のカーボンニュートラルに向けた革新的な技術が、中国だけでなく日本の加工産業に、そして世界の産業への社会実装につながっていくことを期待しています。